
監修者
山本 昭則
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車のプレスにて39年の現場経験を経て、OJTソリューションズに入社しました。改善活動には時に大変な場面もあります。それを乗り越える笑顔、会話を特に大事にしています。休日は趣味の山小屋づくりで精神統一をし、日々の仕事の英気を養っています。
トヨタ式改善とは、端的に言えば「ムダ・ムラ・ムリ」を取り除き、生産性や品質を高めるための取り組みです。もともとは製造業で培われてきた考え方ですが、近年は国内外のサービス業やIT企業でも注目されています。海外では Amazon をはじめ、”KAIZEN” という言葉そのものが働き方の改善手法として浸透し、実際の現場でも取り入れられているようです。
少子高齢化に伴い労働人口が減少していく日本においては、今ある人材を最大限に活かすための改善活動がこれまで以上に重要になります。本記事では、トヨタ式改善の目的や活動のポイントをわかりやすく解説します。
トヨタ式改善とは、業務における「ムダ・ムラ・ムリ」を発見し、排除することで仕事の付加価値を高める活動のことです。製造業に限らず、あらゆる業種・職種で活用できる考え方として広く知られています。
トヨタ式改善の基本には、次の3つの視点があります。
これらを視える化し、現場レベルで一つひとつ取り除いていくことが、改善の第一歩となります。「ムダ・ムラ・ムリの存在に気づけるかどうか」が改善活動の質を左右します。
ムダとは仕事をする上で必要のない動きやモノのことです。トヨタでは現場で起こりやすい代表的なムダを体系的に整理し、「7つのムダ」という視点で改善ポイントを見つけます。
これらのムダは相互に関連しており、一つのムダが他のムダを誘発することもあります。例えば、「つくりすぎのムダ」は「在庫のムダ」を生み、それが「運搬のムダ」や「動作のムダ」につながります。そのため、7つのムダを体系的に理解し、優先順位をつけて改善することが重要です。
7つのムダについては、下記記事でも詳細に解説をしています。
7つのムダとは?トヨタ生産方式の考え方や改善の具体例も解説
ムラとは、業務量や品質に一時的なばらつきが生じている状態のことです。特定の人や部署に業務が集中していたり、担当者によって品質に差が出る、といったケースが該当します。
ムラが続くと、忙しい人と余裕のある人が混在し、作業の遅れやミス、品質低下を招きやすくなります。その結果、急な残業や無理な作業割り当てが発生し「ムリ」が生まれ、手待ちや手戻りといった「ムダ」も増えていきます。
このように現場ではムラを放置してしまうと問題が連鎖しやすく、全体の生産性や働きやすさを大きく損なう要因となります。
ムリとは、人や機械に対して能力や限界を超えた過度な負担がかかっている状態のことです。短期的には問題なく見える場合でも、続ければ品質低下や事故につながる可能性があります。
人のムリの例
機械のムリの例
ムリが発生すると、作業ミスや不良、故障のリスクが高まり、結果として手直しややり直しといったムダが増えます。トヨタ式改善において ムリの排除が重視される背景には、現場の安定と安全を守るという考え方があります。
トヨタ式改善の土台となるのが「5S」です。5Sとは、以下の5つの頭文字を取った考え方です。
5Sを徹底することで、ムダ・ムラ・ムリが「視える化」され、問題点に気づきやすくなります。例えば、整理・整頓ができていない職場では、探す動作や余分な移動が増え、動作のムダや手待ちのムダが発生しやすくなります。
5Sは単なる職場美化活動ではなく、トヨタ式改善を継続的に進めるための重要な基盤です。
5Sについての詳細や活動のポイントは下記記事で解説しています。
5S活動とは?実施する目的や意味、具体的手順を解説
トヨタ式改善には大きく3つの目的があります。
それぞれの目的を詳しく解説します。
大きな目的の一つはQCDSの向上です。QCDSとは、Quality(品質)、Cost(原価)、Delivery(生産性・納期)、Safe(安全)のことをさします。QCDSは製品やサービスを評価するための管理指標であり、これらを総合的に捉えて改善することで、現場力と企業価値を高めるフレームワークとして活用することができます。
ムダを減らすことで材料費や工数が削減され原価が下がり、動作のムダや手待ちを取り除けば生産性が向上し納期遵守につながります。さらに、ムラをなくして作業のばらつきを抑えることで品質が安定し、ムリを改善すれば事故や不良のリスクが下がり、安全性が高まります。
QCDSの改善はどれか一つだけを見ても成果は限定的で、4つが連動することで初めて大きな効果が生まれます。
QCDSの詳細や改善手法は以下の記事で解説しています。
QCDSとは? 優先順位、QCDとの違い、Sの意味(Safety/Service)を解説
改善と聞くと、コスト削減や生産性向上といった収益面の効果に注目されがちです。しかし、現場の視点で見ると、改善の本質は「働きやすさを高めること」にあります。
ムダ・ムラ・ムリが減ることで、不要な作業や無理な負担が解消され、仕事が確実にラクになります。また、改善活動の過程では、チーム内のコミュニケーションが自然と活発になります。自分たちの意見が反映され、改善の成果を実感できるようになると、仕事への納得感や達成感が高まり、会社や仲間への信頼・愛着が生まれます。こうした積み重ねが、従業員エンゲージメントの向上につながっていきます。
トヨタでは、改善活動そのものを「人材育成の機会」と位置づけています。
改善を進める過程では、
といった、多くの能力が自然と鍛えられます。
改善を繰り返すことで、指示待ちではなく自ら考えて行動できる人材が育ちます。これは現場の人材育成における重要なポイントで、改善文化が根づいた組織ほど自律した人材が増え、長期的な組織力が向上します。
トヨタ式改善は、単なる業務効率化手法ではなく、現場力と人材力を同時に育てるしくみと言えるでしょう。
トヨタ式改善は、次のステップで進めることができます。
ここでは、それぞれのステップを現場視点も交えて紹介します。
まずは現場の現状を正しく把握し、改善すべきポイントを見つけることから始めます。
改善の出発点は「気づくこと」です。現地現物の姿勢で現場に足を運び、実際の作業や物の流れを見ることで、ムダ・ムラ・ムリに気づきやすくなります。
現地現物のポイントについては以下の記事を参考にしてください。
現場観察のメリットとやり方!現地現物の精神の重要性も解説
改善に慣れていない段階では、問題点がなかなか見えないこともあります。その場合は、「ムリ」に注目するのがおすすめです。やりにくいと感じる仕事、大変だと思っている仕事にはほぼ確実にムリが潜んでおり、その周辺にムダやムラが隠れています。
また、第三者に見てもらうのも効果的です。仕事のやり方に慣れている人はそれが当たり前になってしまい、改善ポイントを見つけにくいものです。他部署の人に作業を観察してもらう、作業の様子を録画して互いに確認する、などの工夫が気づきを得るきっかけになります。
改善すべきポイントが見つかったら、改善案を考えます。複数人でアイデアを出し合い、出たアイデアに優先順位をつけましょう。優先順位は、効果やコスト、実現可能性などの複数の視点で決めます。現状把握が不十分なまま改善案を考えると効果が出にくい という課題がよく起こります。
「設備を入れ替える」「皆に広報して徹底する」など表面的で安易な案に落ち着いてしまうことが多いためです。
事実に基づいて原因をつかみ、「どこに手を打てば効果が大きいか」を見極めることが改善の質を決めます。
改善案が定まったらいよいよ実行です。「誰が・何を・いつまでに・どのように」を明確にして役割を分けて実行しましょう。また、改善効果を正しく把握するためには、改善前の状態を記録しておくことも重要です。
現状の作業時間、レイアウトや動線、動作や手順の記録など、改善前の事実がなければ、成果の大小が判断できず、現場の納得感も得にくくなります。
実行の結果、どんな成果が得られたか評価します。定量面(時間・数量・コスト)だけでなく、定性面(やりやすさ・安全性・負荷感)も合わせて確認することが大切です。
また、結果だけでなくプロセスを評価することも欠かせません。
この振り返りが次の改善の質を高め、改善が継続される文化につながります。
改善活動は必ずしも順調に進むわけではありません。活動が途中で立ち消えてしまう、だんだんとマンネリ化してやる気がなくなっていく、という場合もあります。こうした失敗を防ぎ、活動を継続させるためのポイントをご紹介します。
改善活動は現場主導で進めることが理想ですが、その基盤をつくるのは経営層や管理職の役割です。現場が改善する意味や期待する効果が明確に伝わらなければ、従業員は改善の必要性を感じにくく、活動が停滞してしまいます。
「コスト削減のために改善をせよ」といった一方的な指示だけでは、継続的な改善文化は根づきません。なぜ改善が必要なのか、改善するとどのような良い変化が起こるのか、そうした背景を共有することが不可欠です。
また、管理監督者が常に現場に張り付く必要はありませんが、要所となる場面では現場に足を運び、活動の様子を見て励ますことが重要です。「上司が見に来てくれる」「自分たちの取り組みに関心を持ってくれている」という感覚は、従業員のモチベーション向上に大きく影響するでしょう。
さらに、改善活動が進めやすい環境を整えるのも経営の役割です。
といったサポートが、改善の定着を後押しします。
改善は収益改善につながる取り組みですが、最初から大きな成果を狙うと現場はついていけず、意欲が低下してしまうことがあります。
まずはどんなに身近なテーマでもいいので「自分の仕事がラクになる」改善からはじめることをおすすめします。モノを取りに行く時間が減った、かがむ作業がなくなった、少し早く帰れるようになった。こういった身近で実感しやすい改善は、従業員の前向きな気持ちを生みやすい取り組みです。
この「小さな成功体験」が積み重なることで、
という良い循環が生まれます。そのためには、気づいたことを共有し合い、誰でも改善提案を出せる環境をつくることが成功の鍵になるでしょう。
改善を文化として根づかせるには、個人の努力に依存しないしくみが必要です。
例えば、改善提案の共有会を設けたり、良い取り組みを標準に落とし込むといったしくみがあると、改善が日常業務として定着し、継続しやすくなります。
ここでは、実際の現場で行われた改善の具体例を3つ紹介します。
それぞれの具体例を詳しく紹介します。
食品製造業で「不良・手直しのムダ」を改善した事例です。ある工場では、年間で十数万枚の包装不良が発生しており、再包装に伴う資材コストと人件費が大きな負担となっていました。
そこで、包装不良を「機械別」「原因別」に細かく分析し、改善すべきポイントを特定しました。特に影響が大きかったのは 糊不良(糊の位置・はみ出し) で、工程の中で最も改善効果が期待できる箇所でした。
改善策として、
などを実施した結果、1年半後には不良率を 5%台 → 1%台 へと大幅に低減することに成功しました。
この改善で重要なのは「原因の特定と優先順位付け」です。ただやみくもに目についたところから改善しても、どれほどの効果が出るかはわかりません。この事例でも、改善ポイントの見極めが成果に直結しています。
介護施設で入居者対応の「品質のムラ」と「業務負荷の偏り」を改善した事例です。この介護施設は入居者のグループ構成により、介護士の負荷が大きく異なっていました。忙しいユニットAは残業も多く、業務量も多いため対応が急ぎがち。一方でユニットBは比較的業務に余裕があり、丁寧な対応ができる。この差が、入居者への対応品質のムラにつながっていました。
そこで実施した改善は次の2つです。
負荷の偏りはミス・疲労・品質低下の原因になるため、早期改善が必須です。この事例は、ムラの改善が現場の働きやすさ向上にもつながった例といえます。
金属加工業で作業者の身体への「ムリ」を取り除いた事例です。仕事の性質上重量物を扱うことが多く、腰や膝の疾病が起きやすいことが課題でした。作業を観察すると、重いものを持ったまま何度もかがむ、体をひねるといった、負担の大きい動作が頻発していることが分かりました。
改善策として、
などを実施し、作業負荷を大幅に低減しました。
現場では、そのやり方が当たり前になっているとムリに気づきにくくなる ことがよくあります。普段の作業で、入社した時に教わったやり方、過去からずっと変わっていないやり方を疑う機会はまずありません。第三者の視点を取り入れることで、長年気づかなかったムリを発見できた事例と言えます。
トヨタ式改善には収益面での効果だけでなく、人材育成や現場力向上といった多くのメリットがあります。一方で「トヨタ式改善=つらい」「時代遅れ」というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。確かに、改善活動は取り組めばすぐ成果が出るものではなく、業務で忙しい中で改善活動の時間を捻出した場合、一時的な負荷増大が起きることもあります。また、目的や効果が十分に共有されないまま改善を押し付けてしまうと、現場に負担感だけが残り、「つらい改善」 になってしまいます。
しかし、経営や管理職層が活動に適切に関与し、現場が「良くなった」と実感できる改善ができれば、こうしたネガティブな印象は大きく変わっていきます。改善はあくまで現場をラクにし、生産性と安全を高めるための取り組みであることを丁寧に伝えることが大切です。
また、トヨタ式改善が時代遅れかという見方については、現場経験者の立場から言えば、必ずしも当てはまりません。
冒頭で触れたAmazonの例をはじめ、世界各国で「KAIZEN」が評価され、今も実際に活用されています。労働人口が減少していくこれからの日本の企業にとっても、トヨタ式改善は現場力を高める有効な手法であると言えます。
本記事では、トヨタ式改善の考え方や目的、進め方のポイントを紹介しました。
トヨタ式改善は、業務に潜むムダ・ムラ・ムリを見つけて取り除き、仕事の付加価値を高める取り組みです。QCDS(品質・原価・生産性・安全)の向上だけでなく、現場の働きやすさ向上や人材育成にもつながる点が大きな特徴です。
改善を進める際に重要なのは、特別なしくみよりも現地現物で気づく姿勢、そして小さな改善を続けられる環境を整えることです。現場を見る習慣が根づけば、ムダ・ムラ・ムリに気づける人材が増え、改善は自然と継続していきます。
トヨタ式改善は製造業に限らず、サービス業や間接部門など、さまざまな業務で応用可能です。まずは現場の課題に目を向け、できるところから一歩ずつ改善を始めてみてください。


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