監修者
安田 幸治
OJTソリューションズで、 お客様の改善活動と人材育成をサポ―トするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車にて42年間の現場経験、管理職の経験を経てOJTソリューションズに入社しました。モットーは「仲間に感謝」。時に愛犬に癒されながら、日々お客様の現場で感謝・改善・努力の毎日を過ごしています。
トヨタの管理監督者は、「現地現物」を第一に、現場に足を運ぶことを重視しています。メンバーをまとめる立場にある方のなかには、現場が気になりつつもなかなか足を運べていない方も多いのではないでしょうか。なかには、災害や品質不良で生産が安定せず、苦労されている方もいらっしゃるかもしれません。
現場を預かる管理監督者は、データや部下からの報告だけで現場を把握した気になってはいけません。「現場は生き物」だととらえ、自分の目で事実をつかむことが大切です。本記事では、現場観察のメリットと具体的なやり方を解説するとともに、現場観察の失敗事例や役割に応じた現場観察の頻度もご紹介します。現場を管理するリーダーは、ぜひ参考にしてください。
リーダーや管理監督者が現場観察を行うことで得られるメリットは「課題の発見」と「信頼の醸成」です。それぞれ2つのメリットついてそれぞれ解説します。
データや部下からの報告を受けて現場を管理するのは効率的ですが、現場を管理する立場の人はそれだけに頼ってはいけません。トヨタでは「5大管理」として安全・品質・生産・原価・人材育成の項目をもとに職場を運営しています。また、それぞれの職場には「管理ボード」が設けられており、5項目をグラフにして見える化しています。
しかし、これはあくまでも管理のためのツールで、データに加えて現場の発生事実を把握する必要があります。人・道具・流れなどにさまざまな変化が起こり続ける現場は「生き物」としてとらえられ、この変化が複雑に絡み合った結果、異常や問題が発生するケースもあります。そのため、「自分の目で発生した事実をつかむ」ことが課題の発見につながります。
例えば異常があった場合、データは結果を表すだけで、そこに至る事実をつかむことはできません。担当者から詳しい事実を確認することもできますが、その報告に間違いがあったり、担当者も人間ですから、自分のミスを隠したりということもあります。間違った対応をしないためにも、異常の際はデータと報告に加え、現場を自分の目で観察することで正しい解決策を導くことができるでしょう。
会社の成長のために打たれた施策は早く現場に伝え、スピード感をもって展開したいと考える方は多いでしょう。ここで管理監督者として気を付けなければいけないことは、「指示しただけで終わらない」ことです。
指示をするだけで現場に足を運ばなければ、メンバーの不安や不満につながる可能性があります。その結果、施策が定着しないばかりか会社への信頼も失われ、メンバーのやる気が削がれてしまうかもしれません。
一方で現場に足を運び、顔を見せ、声をかけながら確認すれば現場は指示の重要性を認識し、やる気とやりがいが生まれ、予想以上の効果につながる可能性もあります。現場は誰もが良い仕事をして認めてもらいたい、という気持ちを心の中に持っています。管理監督者が現場に顔を出し、現場の実態とメンバーの意見に耳を傾けることが信頼の醸成につながります。
現場観察によって、課題発見・信頼醸成の2つがメリットとして得られますが、どのようにして現場観察をすればよいのかわからない方もいらっしゃるかもしれません。現場観察は日常時と異常時によってやり方が異なります。
単に現場に足を運んで「見物」するだけでは正しい現場観察とはいえません。日常時・異常時のそれぞれに合わせた現場観察のポイントを整理していきます。
日常時とは特に問題が起こっていない状態、つまり日々の現場を指します。日常時で大切にすべきポイントとして挙げられるのが、毎日時間を決めて観察することです。毎日現場に足を運んでいると、昨日との違いやささいな変化に気付けます。違いや変化が早期発見できれば、問題が起こる前に適切な対策を取れるでしょう。
また、テーマを絞るのも大切です。1人で多くのメンバーのすべてを観察しきるのは日々の巡回だけでは難しいですが、みる場所を事前に決めておけば、結果的に多くの課題や変化に気付けます。例えば、メンバーの安全を観察する際、日によって保護具・足元などテーマを変えて観察すれば、その場で新鮮な情報を伝えて理解してもらうことができ、災害の未然防止につながります。
一方で、異常時とは、災害や品質不良が起こった時を指します。この時に大切なのは、メンバーの心情を配慮しながら事実をつかみにいくことです。最初からメンバーに話しかけにいくのではなく、まずはメンバーに気付かれないよう遠くから定点で全体を把握してください。この観察により、全体の手順の確認や大きな動作の確認ができます。ここで目安がついたら、部品の組み方や細かい動作を近くで観察します。
ただし、作業の邪魔にならないよう、事前に声かけや説明を行い、いつもの作業ができるように配慮します。こうすることで、日々おこなわれている作業のなかで異常の原因や課題を見つけて対策につなげます。
異常時の観察は長時間かつ見る箇所も多いですが、効率的な観察になるようメモやビデオなどのツールを活用するのもポイントです。会話内容が記録されるため早期に問題発見ができる可能性があります。問題の再発を防止するために真因を見つけることと、現場で作業をしているメンバーが困っていたら寄り添うのが管理監督者の役割です。
あるトレーナーがトヨタで管理監督者をつとめていた時に、現場観察で失敗してしまったエピソードをご紹介します。
それは、現場観察をおろそかにして部下にケガをさせてしまったという経験です。ある日、生産後にはさみを使って作業用の道具を作る計画がありましたが、難しい作業ではないため特別な声かけをすることはありませんでした。そして、いつも通りの現場巡回で終えた後、メンバーがはさみでケガをしてしまいました。
トレーナーは「いつもと違う作業とわかっていたのに、なぜもっと作業の姿を見なかったのだろう」と深く反省しました。このように、現場を見ているようで見きれていない例は多く存在します。非定常作業の際には、より丁寧な声掛けと観察をするよう現場観察を見直すきっかけになったそうです。
現場観察に対する疑問として、自分の役職や立場であればどれくらいの頻度で現場を見ればよいのかという点が挙げられるのではないでしょうか。特に社長などの上職であれば毎日巡回することは現実的ではないでしょう。それぞれの役割に応じてですが、少なくとも現場の管理監督者は短い時間でも毎日現場を見ることをおすすめします。
1回あたりの巡回が15分でも問題ありません。仮に15分しか観察できないのであれば、15分で見られる観察スケジュールを作成してください。「毎日足を運び、メンバーに声をかける」を継続すれば、現場を見る風土が作られ、後輩にも継承できます。このようなひとつひとつの積み重ねが働きやすい職場への進化や会社の進化につながります。
現場観察は、課題発見と信頼醸成という大きなメリットが得られます。観察の方法としては、日常時は時間やテーマを絞る、異常時は作業者の心情を配慮しながら問題の原因を見つけるというポイントがあります。
現場観察をするのは面倒だと感じてしまうかもしれませんが、メンバーの安心や信頼ににつながります。より良い職場づくりのためにぜひ毎日足を運んでみてください。
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