監修者
安田 幸治
OJTソリューションズで、 お客様の改善活動と人材育成をサポ―トするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車にて42年間の現場経験、管理職の経験を経てOJTソリューションズに入社しました。モットーは「仲間に感謝」。時に愛犬に癒されながら、日々お客様の現場で感謝・改善・努力の毎日を過ごしています。
ムダを排除することで、経費削減や売上アップなどが期待できるのはもちろん、管理者や従業員の負担も軽減できます。しかし、改善の経験が浅い人が簡単にムダを発見することはできません。
現場のムダを排除するには、まずはトヨタの「7つのムダ」の視点を知っておきましょう。本記事では、7つのムダの内容から改善事例を詳しく紹介します。
業務改善に悩んでいる企業や、原価低減を目指している企業の方はぜひ最後までご覧ください。
ムダとは、仕事をする上で必要のない動きやモノと定義されます。7つのムダとは、トヨタ式改善の中でムダを発見する視点です。現場における代表的なムダを見つける視点のため、多くの企業が参考にできるでしょう。7つのムダは、具体的に以下のとおりです。
ムダを7つの視点に分解してとらえることに意義があります。例えば、ただ「ムダを探せ」と言われた場合と、「運搬のムダを探せ」と言われた場合、どちらがムダを見つけやすいでしょうか?この7つのムダの視点を知っているかどうかでムダの発見力に大きな差が出てきます。
トヨタ式改善の最終的な目的は、業務における「ムダ・ムラ・ムリ」を発見し排除することで仕事の付加価値を高める活動のことです。「7つのムダ」の視点は、「ジャストインタイム」や「自動化」などの概念とともに、製造業に取り入れるべき考え方のひとつです。
ここでは、7つのムダのそれぞれの定義と改善手法を紹介します。
つくり過ぎのムダとは、必要以上に多く生産する、必要時期よりも早く生産することを指します。トヨタでも「最も排除すべきムダ」と言われており、このムダは在庫のムダや運搬のムダなど他のムダを誘発します。
例)手が空いているからといって必要以上につくり貯めをしておく
例)オーダーが入っていないのに先に料理の仕込みをしてしまう
例)年に1度しか使わない製品パンフレットを大量に刷ってストックする
つくり過ぎのムダが発生する主な原因は、需要予測の甘さと生産計画の甘さです。「たぶん必要になるから念のため」という見切り発車がこのムダを生みます。いわゆる安心在庫を持ちたい気持ちも影響するでしょう。
このムダを排除するには、需要予測と生産計画の精度を高めるしかありません。完璧な予測と計画、というのは非常に難しいので、まずは「手が空いているからつくろう」「念のためつくろう」をやめることからスタートしてみてください。
在庫のムダとは、必要以上の材料、部品、仕掛品、完成品のことを指します。不要な在庫は保管スペースのコストを生みますし、在庫そのものが劣化して損失が出ることもあります。
例)注文から3日で届く部品を1ヶ月分貯めておく
例)工程の生産速度に差があり、とある工程の仕掛品だけ大量にある
例)ホッチキスなど使用頻度が低い文房具を従業員全員が所有している
在庫のムダが発生する原因は複数あります。いわゆるダンゴ生産と呼ばれる過剰なロット生産方式や、「お客様のためには在庫があって当然」という人の意識によるものもあります。
長期的に在庫のムダを排除するためには、需要予測と生産計画の精度を高めることはもちろん、どの工程も一定のスピードでモノをつくるしくみをつくることが必要です。今ある在庫のムダを削減するには5Sの「整理」が非常に有効です。
以下の記事では、5S活動を詳しく解説しています。実施する目的や手順、取り入れるメリットもまとめているので、ぜひご覧ください。
5S活動とは?実施する目的や意味、具体的な手順を解説
運搬のムダとは、付加価値を生まないモノや情報の運搬、流れのことです。そもそも運搬そのものは製品やサービスの価値を高めないので、本質的にはムダです。しかし現実的には運搬なしでモノをつくること、サービスを提供することは難しいので、最小限必要な運搬以外のことを「運搬のムダ」と定義します。
例)作業エリアと部品置き場を何度も往復する
例)荷物を一時的に仮置きし、積み替える
例)デスクとコピー機の間を何度も行き来している
運搬のムダが発生する原因はレイアウトにあることが多いです。基本的には使う頻度が高いものは作業する人の近くに、頻度が低いものは遠くに、というレイアウトが基本です。
モノに注目が行きがちですが、ムダな情報の運搬にも気を付けましょう。関係がない人にメールのCCを付けることも、運搬のムダといえます。
手待ちのムダとは、作業者が次の作業に進めず何もすることがない状態のことです。
例)部品が揃わないため組立作業に入れずただ待っている
例)自動で加工する機械の横で、ただ待って立っている
例)上司の印鑑待ちで契約が先に進まない
手待ちのムダは、工程ごとのつくるスピードに差があると発生します。例えば溶接工程は1時間に80個生産、塗装工程は1時間に100個生産、という工程があったとします。極端な例になりますが、この状態であれば塗装工程の方が早いため、必ず溶接が終わるのを待つことになります。
このムダを排除するには、スピードを一定にするしかありません。溶接工程を改善して100個生産を可能にするか、場合によっては塗装から人員を移動してともに1時間に90個生産、とすることもあるでしょう。設備の故障や仕入れ先の運搬遅延など、イレギュラーな要因での手待ちも現実では多数発生します。
まず始めるべきは、手待ち時間を視える化して把握することです。何が原因による手待ちが多いかを把握し、優先順位を付けて改善していきましょう。
動作のムダとは、付加価値を生まない人の動きのことです。もう少し具体的に説明すると、探す、取りに行く、置きに行く、ムリな姿勢の作業、などのことを指します。作業における人の動きに注目したムダの視点です。
例)頻繁に使う工具を探す、毎回取り出して戻す
例)作業の内容を覚えておらずマニュアルを頻繁に調べる
例)パソコンのフォルダの深い階層から必要なファイルを探す
動作のムダを把握するには作業を観察する必要があります。自分自身の作業を観察するのは難しいので、ビデオで撮影する、第三者に見てもらうなどの工夫が必要です。今の作業のやり方に慣れ、そのやり方が当たり前になっているとなかなか気づくことはできません。
まず取り組むべきは動作のムダの中での「探す」動作のムダの削減です。1時間に1回、2分間モノを探していたとします。小さく感じるかもしれませんが、8時間労働と考えると1日で16分、20日で320分、5時間以上にもなります。
加工そのもののムダとは、生産や品質に貢献しない不必要な加工のことです。会社で決められた基準、もしくはお客様に求められる基準以上の加工をしてしまうことを指します。
例)目に触れない製品の裏面まで綺麗に塗装する
例)ネジで十分な強度が得られる部品に対しさらに接着剤を使って固定する
例)社内資料にも関わらず、過剰なアニメーションなどの装飾をする
加工そのもののムダの原因は明確です。これでよしとされる基準、このやり方で作業するという標準がないことがほとんどの原因です。製造業であればモノが対象になるため比較的こういった基準と標準が定めやすいですが、サービス業になってくると難易度があがります。
例えば営業職の提案資料の品質の基準、と言われても言語化はかなりしにくいでしょう。品質を定めにくい場合は「何時間以内に完成させる」といった時間で切ることも手法のひとつです。
不良・手直しのムダとは、廃棄や必要な不良品や手直しが必要なモノをつくることです。最もダイレクトにコストに響く無駄です。廃棄となれば材料費や加工費のロスになり、手直しとなればその分の余分なコストがかかってきます。また、納期も遅れますから販売機会の損失にもなります。
例)仕様書をよく確認せず、誤った色で塗装してしまった
例)パーツの取り付けミスが発覚し、同じロットの製品を全量検査した
例)誤字がある資料を100部印刷し、すべて廃棄した
不良・手直しのムダの要因は、指示そのものが間違っている場合、ヒューマンエラーによる場合などさまざまです。単純に品質基準を厳しくすればいい、検査の回数を増やせばいいかというと、そう単純ではありません。
改善手法は複数ありますが、品質の基準を明確にする、正しい作業方法を教育する、間違った作業をした場合に作業者自身が気づけるしくみをつくる、工程ごとに品質を保証する(自工程完結)のしくみをつくる、などがあげられるでしょう。
7つのムダには語呂合わせでの覚え方があります。
頭文字をつなげて「飾って豆腐(かざってどうふ)」と覚えましょう。他のパターンとしては「カザフ鉄道(かざふてつどう)」などもあります。
本記事では、トヨタの「7つのムダ」の視点を解説しました。7つのムダとは、以下の7つです。
誤解していただきたくないのは、すべてのムダがこの7つに分類できる、というわけではありません。あくまで発見しやすくするための視点のひとつです。
業種や職種に合わせて内容を変更してもいいですし、「9つのムダ」とオリジナルの視点にしていただいても構いません。改善の第一歩はムダを見つけることです。
小さなムダの排除が大きな経営効果を生みます。ぜひムダの発見を進めてみてください。
RELATION
PAGE
TOP