

監修者
三尾 恭生
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポ―トするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車にて42年の現場経験、管理職の経験を経てOJTソリューションズに入社しました。座右の銘は「不易流行」。変える勇気と変えない勇気を持つことが大事だと信じ、現地現物でお客様と伴走しています。
「QCDSは知っているけれど、PQCDSMEって何が違うの?」「7つの要素をどうやって管理すればいいのか分からない」といった疑問を抱える製造現場のリーダーや管理者の方もいらっしゃるかもしれません。
PQCDSMEとは、従来のQCD(品質・コスト・納期)に、生産性・安全・モラル・環境の4要素を加えた、製造業における7つの管理指標です。変化の激しい現場において、製造品質だけでなく、人・設備・環境を含む“総合的な現場力”が問われるようになった今、PQCDSMEは現場マネジメントの新しい標準として注目されています。人手不足・コンプライアンス強化・SDGs対応など、現場を取り巻く環境が大きく変化する中、QCDだけでは捉えきれない課題が増えているためです。
この記事では、PQCDSMEの意味から、各要素の具体的なKPI設定方法、現場への定着テクニックまでを網羅的に解説します。「結局、何から着手すればいいの?」という疑問にも答えられるよう、現場で使える実践ポイントを交えて解説していきます。
PQCDSMEは、製造業の現場管理における7つの視点を表すフレームワークです。それぞれの頭文字は以下を意味します。
読み方は「ピー・キュー・シー・ディー・エス・エム・イー」とアルファベットをそのまま読むのが一般的です。製造現場では「職場の7大任務」と呼ばれることもあり、TPM(Total Productive Maintenance:全員参加の生産保全)活動においてもPQCDSMEの視点からKPIを設定し、改善活動を進めるケースがあります。
PQCDSMEを活用することで、品質向上にとどまらず、生産性や安全、モラル、環境といった“現場運営の総合力”をバランスよく改善できる点が大きな特徴です。従来の指標では見落とされやすかった領域も管理の対象となり、より持続的で安定した現場運営が可能になります。
従来の生産管理では、QCD(Quality・Cost・Delivery)の3要素、あるいはこれに安全を加えたQCDSの4要素が基本とされてきました。しかし現代の製造業では、これだけでは十分とはいえません。
QCDとPQCDSMEの主な違いは、「人」と「社会」への視点が加わった点にあります。つまり、生産管理をモノの軸だけで捉えるのではなく、働く人・労働環境・社会責任といった、現場を取り巻く広い視点で評価する枠組みへと進化したと言えます。
QCDからPQCDSMEへ拡張された背景には、以下の3つの経営課題があります。
労働安全衛生法の厳格化や、企業の環境負荷低減への社会的要請が高まっています。安全を疎かにした結果、重大災害や法令違反が発生すれば、企業の存続すら危ぶまれます。
さらにカーボンニュートラルやSDGsは、多くの製造業で取引上の重要基準となりつつあり、安全・環境は「当たり前に管理すべき必須領域」へと変わりました。
製造業では慢性的な人材不足が続いており、従業員の定着率向上が喫緊の課題です。従業員のやる気や働きがいを数値化し、改善につなげる視点が欠かせなくなりました。
モラル(士気・意欲)は目に見えにくく管理が難しい領域ですが、生産性や品質に直結するため、重要度が以前より格段に高まっています。
IoTやAIの活用が進み、設備総合効率(OEE)や時間当たり出来高など、生産性を細かく測定・分析できる環境が整ってきました。生産性を独立した管理項目として位置づけることで、継続的な向上活動がしやすくなります。
以前は現場の勘や経験に頼りがちだった生産性評価が、データに基づいた改善テーマ設定へと変化しています。
このように、PQCDSMEは現代の製造業が直面する課題に対応するため、QCDを発展させた管理フレームワークといえます。
PQCDSMEを実務で活用するには、各要素を「どう測定するか」が重要です。ここでは、7つの要素それぞれについて、意味と代表的なKPI(重要業績評価指標)を解説します。
Productivity(生産性)は投入した資源(人・設備・時間・材料など)に対して、どれだけの成果(製品・付加価値)を生み出せたかを示す要素です。
代表的なKPI例
| 指標名 | 計算方法 | 意味・活用ポイント |
| 時間当たり出来高 | 生産数量 ÷ 投入時間 | 工程の処理能力を表す。工程ごとの差を可視化し、ボトルネック工程の特定に活用する。 |
| 設備総合効率(OEE) | 時間稼働率 × 性能稼働率 × 良品率 | 設備がどれだけ効率的に稼働しているかの総合指標。ロス発生源の特定に有効。 |
| 労働生産性 | 付加価値額 ÷ 従業員数(または総労働時間) | 人的資源をどれだけ効率的に活用しているかを示す。教育投資の効果検証にも使える。 |
| 可動率 | 実際稼働時間 ÷ 計画稼働時間 | 計画した時間に設備が正常に稼働している割合。段取り遅れ・保全遅れの影響を確認する視点が重要。 |
生産性向上を図る際は、まず現状値を正しく把握し、時系列で推移を追うことが基本です。
Quality(品質)は顧客が求める仕様や性能を満たした製品を、安定して供給できる能力を指します。品質は顧客からの信頼に直結するため、最も優先される要素の一つです。
代表的なKPI例
| 指標名 | 計算方法 | 意味・活用ポイント |
| 直行率 | 良品数 ÷ 投入数 × 100 | 手直しなく合格した割合。工程改善の効果が即反映される指標。 |
| 不良率 | 不良品数 ÷ 生産数 × 100 | 製品の総生産数に対する不良品の割合。不良水準を把握する基本指標。 |
| 工程内不良率 | 各工程での不良数 ÷ 各工程の投入数 × 100 | 製造ラインの途中で発生した不良品の割合。工程別に把握することで改善の優先付けをする。 |
| クレーム件数 | 月間・年間の顧客クレーム発生数 | 顧客視点の品質評価。内容の分析を必ず行うことが重要。 |
品質管理では「後工程はお客様」という意識を全員で共有し、自工程で不良を造らない、流さないことが基本です。
Cost(原価)は、材料費・労務費・製造経費といった製造コスト全般を管理する要素です。
代表的なKPI例
| 指標名 | 計算方法 | 意味・活用ポイント |
| 製造原価 | 材料費 + 労務費 + 製造経費 | 製造に必要なコスト全体を把握するもの。工程別・製品別で分解して「どこに効く改善か」を明確にする。 |
| 歩留まり率 | 良品生産量 ÷ 投入原材料量 × 100 | 投入した原料から得られる良品の割合。低下要因となるロス分析と合わせて改善する。 |
| 廃棄率 | 廃棄量 ÷ 生産量 × 100 | 生産した製品のうち、廃棄された製品の割合。 |
| 労務費比率 | 労務費 ÷ 製造原価 × 100 | 製造コストに対する人件費の割合。人員配置や多能工化とセットで議論する。 |
コストだけを追求すると品質や安全が損なわれるリスクがあります。Q(品質)・S(安全)とのバランスを常に意識して改善を進めることが大切です。
Delivery(納期/物流)は顧客と約束した期日・数量どおりに製品を届ける能力を表します。
代表的なKPI例
| 指標名 | 計算方法 | 意味・活用ポイント |
| 納期遵守率 | 納期どおりに納品できた件数 ÷ 全納品件数 × 100 | 納期信頼性を示す指標。遅延理由を分類し、再発防止を体系化。 |
| リードタイム | 受注から出荷までの所要日数 | 短縮化により競争力を高める |
| 在庫回転率 | 売上原価 ÷ 平均在庫金額 | 一定期間に在庫がどれだけ入れ替わったかを表す指標。在庫の動きを可視化し、適正在庫の維持を図る。 |
| 計画達成率 | 実績生産数 ÷ 計画生産数 × 100 | 生産計画の精度を評価する |
納期管理では、自社内の生産工程だけでなく、サプライチェーン全体を視野に入れた取り組みが求められます。
Safety(安全)は「安全はすべてに優先する」という製造業の大原則を測定する領域です。
代表的なKPI例
| 指標名 | 計算方法 | 意味・活用ポイント |
| 休業災害度数率 | 休業災害件数 ÷ 延べ労働時間 × 100万 | 100万延べ実労働時間あたりに発生した不休災害による傷病者数。業界平均との比較で自社の安全レベルを把握。 |
| 強度率 | 労働損失日数 ÷ 延べ労働時間 × 1000 | 1,000延べ実労働時間当たりの労働損失日数で災害の重さを表したもの。重大度に応じて対策レベルを検討。 |
| ヒヤリハット報告件数 | 月間の報告件数 | 件数が多いほど危険に対する感度が高い現場と評価。 |
| 安全パトロール指摘数 | 巡回時の不安全箇所の指摘件数 | 継続的な改善と再発防止のしくみづくりが重要。 |
ヒヤリハット報告は「報告が多い=問題がある」ではなく、“危険の芽を早期に発見できている”という視点で評価することがポイントです。
Morale(モラル/意欲)は従業員のやる気、働きがい、チームの士気を指します。定性的な要素と思われがちですが、適切な指標を設定すれば数値化が可能です。
代表的なKPI例
| 指標名 | 計算方法 | 意味・活用ポイント |
| 改善提案件数 | 月間・年間の提案件数(1人当たり) | 現場の改善意欲を測る代表的な指標 |
| 離職率 | 離職者数 ÷ 期首従業員数 × 100 | 職場の魅力度・定着度を示す。業界比較を行うと正確に評価できる。 |
| 有給取得率 | 有給取得日数 ÷ 有給付与日数 × 100 | 働きやすさの度合い。計画的付与などの制度や施策と合わせて分析。 |
| 多能工化率 | 複数工程を担当できる人数 ÷ 全作業者数 × 100 | 複数工程を担当可能な作業者の割合。OJT育成効果の指標にもなる。 |
| 欠勤率(アブセントイズム) | 欠勤日数 ÷ 所定労働日数 × 100 | 高い場合は職場環境の問題を示唆する |
| 従業員満足度スコア | 定期アンケートによる点数化 | 継続的に測定し、施策に対する改善度を確認する |
Moraleは他の6要素を支える土台であり、意欲ある現場は改善サイクルが自然と回りやすくなります。
Environment(環境)は製造活動が地球環境に与える影響を管理する領域です。
代表的なKPI例
| 指標名 | 計算方法 | 意味・活用ポイント |
| CO2排出量 | 燃料使用量・電力使用量から換算した排出量 | Scope区分(企業活動のどのプロセスで発生したかの分類基準)を明確にして管理する |
| 電力消費量 | 月間・年間の電力使用量(kWh) | 原単位(製品1単位当たり)で比較する |
| 産業廃棄物排出量 | 月間・年間の廃棄物発生量 | リサイクル率と組み合わせて評価する |
| リサイクル率 | リサイクル量 ÷ 総廃棄物量 × 100 | 廃棄物の再資源化の度合いを示す |
| 水使用量 | 月間・年間の水使用量(m³) | 節水対策の効果を測定する |
環境への配慮は、社会評価向上だけでなく、エネルギーコスト低減にもつながる重要領域です。
PQCDSMEの7要素を現場に浸透させるには、教育方法の工夫が欠かせません。特に「どう伝えるか」「どの順番で定着させるか」は現場の負担や理解度に直結するため、体系的な導入が重要です。
7つの要素を一度に管理しようとすると、現場が混乱します。まずは「S(安全)」から徹底し、次にQやDなど、段階を踏んで要素を増やしていく方法が効果的です。S(安全)は全ての活動の前提条件であり、ここが不安定な状態では他の改善が持続しません。安全が確立してはじめて、Q(品質)・D(納期)などの改善の土台が整います。
また、段階に導入することにより「まず一つのテーマに集中する」状態をつくりやすく、負担感の軽減にもつながります。
「今週はMの週」「今月のテーマはE」といった形で、PQCDSMEの1要素にフォーカスする期間を設けると、現場の意識を高められます。朝礼で前日の実績を共有したり、各要素に関連するKPIを掲示板に表示したりする「視える化」も有効です。
特に、毎日の短い接点に組み込むことで、PQCDSMEを「別業務」ではなく「普段の仕事の一部」として認識しやすくなります。
また、難しい分析よりまずは「数字に触れる習慣をつくること」が重要です。習慣化が進むと、現場は自然と改善の視点を持ち始めます。
現場への定着には、視覚的なツールも役立ちます。PQCDSMEの7要素を図解したポスターを作業場に掲示したり、各要素のKPIをまとめた管理ボードを設置したりする方法が考えられます。
特に「どこを見ればよいか」「何が良くて何が悪いか」がひと目でわかるツールは、教育効果が高く、現場の自律的な判断を促します。
PQCDSMEの7要素は相互に影響し合います。効果的な改善を進めるには、要素間の関係性を理解し、優先順位を明確にすることが大切です。特に「どの要素から手をつけるか」を整理することで、現場の改善活動は一気に進めやすくなります。
製造現場における優先順位の基本は「安全は全てに優先する」です。一般的には次の順番で考えると、活動の迷いがなくなります。
コスト削減のために安全や品質を犠牲にすることは、短期的な利益を得られたとしても、長期的には重大なリスクを招きます。優先順位は「階層」と理解するとよいでしょう。上位を満たして初めて下位の改善に意味が生まれます。
PQCDSMEの各要素について、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回すことで、継続的な改善が可能になります。ただし、PDCAは回せばよいものではなく、各ステップで「やるべき深さ」があります。
Plan(計画):各要素のKPIと目標値を設定します。例えば「不良率を現状の3%から2%に低減する」といった具体的な数値目標を立てます。目標は“達成可能で現場が納得できるレベル”に設定することが重要です。
Do(実行):設定した目標に向けて、具体的な施策を実行します。作業手順の見直し、設備の改善、教育訓練などが該当します。「誰が・いつまでに・どうやって」を明確にすると、実行の質が高まります。
Check(評価):定期的にKPIの実績を確認し、目標との差異を分析します。単なる数値比較ではなく「なぜこうなったか」を洞察することが重要です。
Action(処理):目標を達成できなかった場合は原因を追究し、次のサイクルに向けた改善策を検討します。達成できた場合も「なぜ成功したか」を分析し、再現可能な標準へ落とし込むと効果が持続します。
このサイクルを各要素で回しつつ、要素間のバランスにも目を配ることで、総合的な現場力の向上が期待できます。
PQCDSMEは、製造現場の管理を体系化するための7つの視点です。従来のQCDに加え、生産性(P)、安全(S)、モラル(M)、環境(E)を管理項目に含めることで、現代の製造業が抱える多様な課題に対応できます。
まずは自社の現状を数値で把握することから始めてみてください。KPIを設定し、視える化を進めることで、改善すべきポイントが明確になります。ただし、PQCDSMEは万能な評価軸ではありません。自社の業種・規模・成熟度に合わせて、重点的に取り組む項目やKPIを取捨選択することが、無理なく効果を上げるための重要なポイントとなります。
改善を進める際は、「全部を一度に」ではなく、優先順位(S→Q→D→C)と段階的導入を意識することで、現場の負担を抑えながら確実に定着させることができます。
最終的には、7つの視点が日々の業務に自然に溶け込み、現場自らが改善を続けられる状態をつくることが理想形です。PQCDSMEは、強い現場づくりのための“考え方の枠組み”として、自社に応じた柔軟な活用を心がけることが成功への近道となるでしょう。
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