監修者
山本 昭則
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車のプレスにて39年の現場経験を経て、OJTソリューションズに入社しました。改善活動には時に大変な場面もあります。それを乗り越える笑顔、会話を特に大事にしています。休日は趣味の山小屋づくりで精神統一をし、日々の仕事の英気を養っています。
「部下を困らせなさい」と聞くと、面倒を見ない放任主義の上司というイメージを持たれるかもしれません。しかし、トヨタでは人が生み出す知恵を重要視しているため、あえて部下に考えさせることが多くあります。
部下が困っていると手助けしたくなるものです。答えを教えて上司が課題を解決してしまうことも多いでしょう。しかし、そのやり方だけでは部下に答えを待つ癖がついてしまう場合もあります。最悪の場合は「なんでも上司に答えを聞けばいいだろう」と指示待ち人間になってしまうかもしれません。
本記事ではトヨタの部下を困らせる考え方をはじめ、部下が育つためのアドバイス方法や上司の役割を解説します。部下に対する接し方や上司としてのあり方にお悩みの方はぜひご覧ください。
難易度の高い課題に当たったとき、自分の力に限界を感じてしまう部下は少なくありません。しかし、トヨタでは「人間の知恵に限界はない」と考えており、メンバー一人ひとりが絞りだす知恵にこそ価値があると信じています。
弊社のとあるトレーナーは、組長や工長などいわゆる「中堅」とされるメンバーにはあえて難易度の高い課題を与えていました。ときには部下が持つ能力を超える課題も与えていた者の、難題に取り組ませることで知恵を絞る経験をさせていました。
はじめは無理だと意気消沈していた部下も必死に知恵を絞り出し、ゆくゆくは解決の糸口を見出します。難易度の高い課題や高い目標を与えることは、部下が持つ「考える力」を引き出すきっかけになるでしょう。
難易度の高い課題を与えると、部下は必死で解決の糸口を見つけようとするでしょう。しかし、ただ漠然と普段通りの業務をおこなっていても解決策を見つけることはできません。高いレベルの改善を実現するためには、普段よりも広い視野で物事をとらえる視点を持つ必要があります。
部下が普段よりも広い視野で課題を見たときに、本気で悩んだり何らかの気付きを得たりした瞬間が上司の出番です。このタイミングで声かけをしてヒントとなるアドバイスをすれば、相手の心に響きます。
本気で悩んでいないときに声かけをしたり最初から答えを与えてしまったりすると部下は成長しません。はじめから答えを与えず、大いに悩ませることこそが重要だとトヨタは考えています。
トヨタでは「人間の知恵に限界はない」と認識していますが、困り方が少ないときは思考が停止してしまう場合があります。部下が十分に悩めるような課題ではなかった場合は、これまでの知識や経験が邪魔をして答えをうまく導けません。
トヨタ元副社長の大野耐一は、「能力・脳力・悩力」という言葉を使っていました。能力は物事を能率的におこなうこと、脳力は物事を考えるための力、そしてこの2つを発揮するために「悩力」が重要だと説いていました。
部下をどのように悩ませるかを考えるのが上司の仕事であり、ある程度考える力が付いてきた部下には「悩力」を駆使しなければならない課題を与えることが重要です。
近年「指示待ち人間」が増えていると言われています。指示待ち人間とは、指示されたことしかおこなわず、それ以上の業務はしない人のことを指します。「最近の若者」としてひとくくりにされてしまうことが多いですが、実は当事者ではなく上司に責任があります。
指示待ち人間になってしまった部下が自分で考え答えを出せるようになるには、部下が課題を自分事としてとらえる必要があります。
「言われた通りに動かず、違うと思ったことに対してはどんどん反論してきなさい」といったスタンスを持ち、自分の意見を伝えてきた部下は正面から受け止めて徹底的に議論を交わすとよいでしょう。
よくある上司は、部下が困っていたらすぐに答えを教えてしまいがちです。その理由は、業務をスピードアップさせたり部下が考える時間を待てなかったりするからなどが挙げられます。たしかにすぐに答えを与えれば、課題がすぐに解決し、部下もストレスを感じずに仕事ができるでしょう。しかし、トヨタでは部下の考える力を育てるためにすぐには答えを与えません。
部下から相談されたときは、まず課題を解決する目的を明確にします。目的を尋ねたときにすぐに答えられれば問題ないものの、答えられない場合は課題解決の途中で誤った方向へ進んでしまう可能性があります。まずは課題を解決する目的を答えられるか聞き、答えられないようであれば再度考えをまとめるよう促しましょう。
また、相談を受けたときには部下が自分で考えて行動することが重要で、「人に言われたことを守る」ではなく「自分で決めたことを守る」ようにさせると、仕事が一気にやりがいのあるものになります。ときには「教えない」教え方を試してみてはいかがでしょうか。
上司は部下を監督・指導する役割を持っていますが、すべての業務を任せっきりにするわけではありません。部下に仕事を任せる場合は、上司が部下に権限を委譲し、問題が起きた場合に責任を取らなければなりません。つまり、丸投げするのとはわけが違い、部下がミスをしたら上司がフォローに回る必要があります。
部下に頼りきってまったく自分で考えていない上司は、部下が答えを考えてきたときに適切なアドバイスができません。
数字やノルマの目標を掲げて、「頑張れ」と応援するのは誰でもできますが、トヨタが目指す上司像は「自分でも一生懸命考えて、いつも自分なりの答えを持てる上司」です。これができてこそ、将来自分の後任となるメンバーを育てられるだけでなく経営陣からも高く評価されます。
トヨタの上司は、すぐに答えを与えるのではなく部下の持つ「考える力」を最大限に引き出します。「人間の知恵に限界はない」という考えのもと、優秀な部下を育てるためには大いに悩ませ、困らせることが重要と考えています。
冷たく感じられるかもしれませんが、悩む力を身につけた部下はあらゆる課題に意欲的に取り組み、自分で考えて動けるようになります。
生産性や業務効率を優先して、すぐ部下に答えを教えてしまう上司も多いかもしれませんが、一度トヨタの部下の育て方を実践し、主体性のある人材を育てることを目標にしてみてはいかがでしょうか。
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