改善コラム

2020.07.17

  • 現場改善

あえて仕事を「止める」

トヨタの習慣「紐を引く」

生産のラインには、「アンドン」という異常発生を表示装置に点灯させるしくみがあり、作業者のスペースには紐が張られています。そして、何か異常が発生したときには、作業者はその紐を引っ張ることで異常を知らせて、ラインを止めるのがルールになっています。アンドンの紐を引くと、現場の上司が1次対応をしますが、解決までに長時間停止せざるをえない場合には、各所から関係者が集まってきます。管理監督者、設計者や生産者などが現場を囲んで、なぜ問題が起きたのか真因を追究し、「ああしたらいいのでは」「こちらのほうがいいかも」と議論が始まります。そして、問題を解決できたら、ラインを再び動かします。このように「異常が発生したら、機械やラインをただちに止める」しくみを、トヨタでは「自働化」と呼んでいます。

 

トヨタで保全作業を担当していた弊社トレーナーは、「ラインを止めることの大切さ」をこう話します。

 

「保全のスタッフは、故障が発生してラインが止まったとき、いちばんに駆けつけ、問題が発生した現場そのままの状態を見ます。刑事ドラマでも現場保存をしますが、それと同じでラインを動かしてしまうと、真因がわからなくなってしまいます。現場には問題解決のヒントや問題を引き起こした真因の痕跡が残っているものです」

 

ここでのポイントは、紐を引いてラインを止めれば、問題の真因のありかを絞ることができることです。今の時点で問題が発生しているということは、前工程までに真因があるということ。もし最後まで流れてしまったあとに問題が見つかったら、全工程を再チェックして、問題を引き起こした真因を探らなければなりません。その場合、時間も労力も膨大になってしまいます。問題が発生した時点でラインを止めれば、「A工程とB工程の間に真因がありそうだ」と見当をつけることができます。つまり、効率的に問題への対応ができるのです。

 

「悪い報告」を受け止める上司の度量も必要

ラインのストップにかぎらず、悪い情報はすぐに上司に報告するのも、トヨタの習慣のひとつ「バッドニュース・ファースト」といって、悪い報告こそ優先してすぐに伝えることが、ルールになっています。これもラインを止めるのと同じ発想で、問題やトラブルを放置すると、どんどん大きくなっていき、あとで大問題に発展する可能性があるからです。

しかし、「悪い情報ほど隠したい」というのが人間の心理。なんとか自分で解決しようとあがいているうちに、取り返しがつかないほど問題やトラブルが拡大してしまうのはよくある話です。OJTソリューションズの専務取締役は、「バッドニュース・ファーストを職場で実践するには、その報告を受ける上司の度量も必要だ」と言います。

 

「人間のすることですから、間違いや問題は必ず起きる。だからこそ、起きたあとの対応がポイントです。問題が発生したら、すぐに報告する。ためらう暇があると、『なんとかなるのではないか』『これがバラたら怒られる』などと余計なことを考えて、ますます報告が遅れることになります。すぐに悪い報告をしてもらうには、それを受け止める上司の度量も問われます。悪い報告を受けたとしても、感情的に怒ってはいけません。むしろ、『報告をしてくれてありがとう』という態度で受け入れて対応策を考える。そういう意味では、上司には、胆力が求められます。」

 

「悪い報告を受けたくない」という気持ちはわかりますが、上司がそこから目をそらそうとすると、部下も報告がしづらくなり、かえって問題がこじれていきます。「バッドニュースを歓迎する」。そんな発想に転換することで、組織の風通しがよくなり、問題にもすばやく対応できる職場になります。

 

問題を正直に申告した人には「ありがとう」

さらに上司に求められるのは、メンバー個人のせいにしないということです。トヨタでは、紐を引いてラインを止めた当事者が叱られることはありません。むしろ異常を発見し、アンドンを引いたら、「よく引いてくれた。ありがとう」と言われます。もし上司に怒鳴られることがわかっていれば、異常や問題を隠したくなります。「このくらいは大丈夫だろう」「バレないだろう」と考えて、そのまま流してしまったら、後工程で大問題となる可能性があります。隠されがちな失敗を表に出す秘訣は、当事者を責めることなく、問題を引き起こした原因にフォーカスすることです。ある一人が起こした問題は、同じ職場で働く誰もが引き起こす可能性があります。「〇〇さんの対応がまずかった」と個人に責任を押しつけるのではなく、職場で同じトラブルが再発しないような対策を考えるのが上司の仕事です。都合の悪いものは隠したがる。そんな人間のクセを理解したうえで、トヨタの現場では失敗や故障をオープンにし、それが再発しないような対策を考えるという習慣があります。この習慣は、「人を責めるな、しくみを責めろ」という言葉に凝縮されています。つまり、問題が起きたとき、その作業者を責めるのではなく、作業者が失敗してしまうようなしくみを改善することが重要視されているのです。

 

まとめ

・異常発生でラインをあえて止めることは「自動化」という

・発生即止めれば真の原因=真因がわかる

・悪い情報こそ早く伝えると被害が少ない

・止めた作業者には、異常を見つけてくれたことを感謝する

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。