
監修者
見城 吉昭
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポ―トするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車の機械加工にて39年の現場経験を積み、OJTソリューションズに入社しました。趣味の読書や旅行で自分の世界を広げながら、現場で働く人の声を大事に「働く人の心のための改善」に日々取り組んでいます。
設備稼働率は、製造現場でよく使われる指標である一方、その意味や使い方が誤解されやすい数値でもあります。「稼働率を上げろ」という指示が、現場に無理や混乱を生んでしまうケースも少なくありません。
本記事では、設備稼働率を経営判断のための指標として整理したうえで、混同されやすい可動率やOEEとの違いを明確にします。あわせて、OEEや7大ロスを用いて、現場がどこに着目して改善を進めるべきか、その考え方を解説します。
設備稼働率とは、生産設備が持つ最大能力に対して、実際にどれだけ生産したかを示す指標です。工場や生産ラインの「仕事量」を把握するために用いられます。
計算式は次の通りです。
設備稼働率(%) = 実際の生産量 ÷ 定時生産能力 × 100
たとえば、1日に100個生産できる設備で80個を作った場合、稼働率は80%となります。一方、残業や休日出勤などで120個を生産すれば、計算上は120%になります。
設備稼働率が注目される理由は、設備投資の妥当性や生産体制の見直しと密接に関係しているためです。稼働率が低い場合は過剰設備の可能性を示唆し、高い状態が続く場合は、設備や人員に負荷がかかっているサインとも読み取れます。
ただし、設備稼働率は市場からの需要、つまり「売れ行き」に大きく左右される指標です。受注が減れば稼働率は下がり、受注が増えれば稼働率は100%を超えることもあります。この点を理解せずに現場へ一律の改善指示を出すと、かえって混乱を招く恐れがあります。
製造現場で混同されやすいのが、「稼働率」と「可動率」です。どちらも「かどうりつ」と読めてしまうため、会話の中では区別されないまま使われることもありますが、見ている対象は大きく異なります。
次のように整理して捉えると理解しやすくなります。
トヨタ生産方式では、現場が主体的に改善すべき指標として「可動率」を重視しています。その理由を、それぞれの特徴とともに解説します。
稼働率は、生産能力に対する実際の生産量の割合を示し、「市場からどれだけ仕事が入っているか」を反映します。「かどうりつ」または「かせどうりつ」と読みます。
トヨタ生産方式の考え方では、稼働率を常に100%に近づけることが最適とは限りません。需要以上に生産すれば「造りすぎのムダ」が発生し、在庫増加や保管コスト、品質リスクにつながるためです。
このため、稼働率は現場の努力だけで引き上げる指標というより、経営層が受注状況や設備投資のバランスを判断するための指標として活用されることが一般的です。
可動率は、「設備を動かす計画に対して、実際に正常稼働できた時間の割合」を示します。「べきどうりつ」と読むのは、「動くべきときに動ける状態」を意味しています。
計算式は次の通りです。
可動率(%) = 実際に正常稼働した時間 ÷ 稼働予定時間 × 100
たとえば、8時間の運転を予定していた設備が故障で2時間停止し、6時間しか動かなかった場合、可動率は75%となります。
可動率は受注量の影響を受けにくく、100%が上限です。そのため、設備保全や改善活動の成果が比較的ストレートに反映されます。トヨタ生産方式におけるジャストインタイム生産を実現するうえでも、可動率の安定は欠かせません。
現場が責任を持って改善すべき指標と、経営判断に使う指標を切り分けること。この視点が、生産管理を整理する第一歩となります。
設備の状態や使われ方を評価する際、「稼働率」だけでは見えない課題があります。その背景を分解し、現場改善につなげるために用いられるのが OEE(Overall Equipment Effectiveness:設備総合効率) です。日本プラントメンテナンス協会が提唱し、JISやISO規格でも参照されており、製造業で広く活用されています。
OEEは次の3つの要素を掛け合わせて算出します。
OEE(%) = 時間稼働率 × 性能稼働率 × 良品率
それぞれが、設備効率を低下させる異なる側面を表しています。
負荷時間(設備を動かすべき時間)に対して、実際に設備が稼働していた時間の割合です。設備故障や段取り替えによる停止ロスが影響します。
時間稼働率(%) = 稼働時間 ÷ 負荷時間 × 100
設備が「どれだけ止まっているか」を把握するための指標です。
稼働時間中に、設備が本来の能力どおりに生産できたかを示します。速度低下やチョコ停によるロスが影響します。
性能稼働率(%) = 基準サイクルタイム × 生産数 ÷ 稼働時間 × 100
設備は動いているものの、「効率が落ちている状態」を捉えるための指標です。
加工した総数に対する良品の割合です。不良品や手直しによるロスが数値を低下させます。
良品率(%) = 良品数 ÷ 加工数量 × 100
【OEEの計算例】
ある設備の1日のデータが次の通りだったとします。
この場合は以下のような計算になります。
OEEは「良品を効率よく作れているか」を総合的に評価できる指標ですが、単一の数値を高めることが目的ではありません。3つの要素に分解することで、どの要素がボトルネックになっているかを特定し、改善の優先順位を決める判断材料として活用することが重要です。
設備稼働率が思うように上がらない場合でも、OEEを確認すれば、「止まっているのか」「性能を活かしきれていないのか」「品質でロスが出ているのか」といった次の一手が見えてきます。
設備稼働率の数値は、高い・低いだけで良否を判断できるものではありません。一般的な目安と、数値が示す背景を整理します。
多くの製造現場では、80〜90%前後が一つの目安とされます。この水準であれば、設備を有効活用しつつ、突発トラブルへの余力も確保できます。
業種や生産方式によっても適正値は異なります。24時間連続稼働が前提の工場と、多品種少量生産で段取り替えが頻繁な工場では、同じ数値でも意味合いが変わってきます。自社の過去データや同業他社のベンチマークを参照しながら、現実的な目標設定が大切です。
生産能力の設定が実態と合っていない、あるいは残業・休日対応が常態化している可能性があります。短期的な対応は可能でも、長期的には設備投資や体制見直しの検討が必要になります。
受注減や過剰設備の可能性があります。原因を分解し、数値の背景を見ることが重要です。
OEEを構成する時間稼働率・性能稼働率・良品率は、現場で一般に「7大ロス」と呼ばれる阻害要因によって低下します。7大ロスは、OEEを構成する3つの指標に対応して、次の7つに分類されます。
以下では、これら7大ロスを3つのカテゴリに分け、代表的な改善策について解説します。
時間稼働率を低下させる主な要因は、設備の停止です。7大ロスのうち、①〜④はすべて「設備が止まっている時間」に直接関係するロスです。
① 故障停止:突発的な故障を防ぐには、予防保全が基本です。定期的な点検やオーバーホールに加え、設備の異常を早期に検知するしくみづくりも効果的です。近年では、IoTセンサーを活用した予兆保全(異音や振動の変化から故障を予測する手法)を導入する工場も増えています。
② 段取り:多品種少量生産では、製品を切り替えるたびに金型交換や調整作業が発生し、停止時間が積み重なりやすくなります。段取り時間短縮の代表的な手法が、シングル段取り(SMED)です。
シングル段取りは、金型や治具交換を10分未満でできるようにする手法で、段取り作業を「内段取り(設備停止中に行う作業)」と「外段取り(設備稼働中に行える作業)」に分けて考えます。事前準備や工具の配置を工夫し、内段取りを極力減らすことで、設備の停止時間を短縮できます。
③ 刃具交換:刃具の摩耗や寿命管理が不十分だと、突発的な交換や品質トラブルによる停止が発生しやすくなります。刃具寿命の見える化や、計画的な交換基準を設けることで、安定した稼働につながります。
④立ち上げ:設備再稼働時の条件出しや調整に時間がかかると、立ち上げロスが大きくなります。条件設定の標準化やチェックリスト化を進めることで、再現性の高い立ち上げが可能になります。
性能ロスは、設備が稼働しているにもかかわらず、本来の能力どおりに生産できていない状態を指します。
⑤ 頻発停止:数秒から数分程度の短時間停止であっても、頻発すれば大きなロスになります。ワーク詰まり、搬送エラー、センサーの誤検知などが典型的な原因です。これらは「すぐ復旧するから」と記録されないケースが多いため、発生回数や停止要因を見える化し、頻発要因から優先的に対策することが改善の第一歩となります。
⑥ 速度低下:設備が設計どおりの速度で動かない要因としては、経年劣化、潤滑不足、微調整のズレなどが挙げられます。日常点検による状態維持と、定期的なオーバーホールによって、設備本来の性能を安定して発揮させることが重要です。
良品率を低下させる要因が、不良品の発生と手直し作業です。
⑦不良・手直し:不良が発生すると、材料や加工時間がムダになるだけでなく、手直しにも工数がかかります。さらに、不良品が後工程に流出すれば、より大きな損失につながります。
対策としては、工程内で「不良を作らない・流さない」しくみづくりです。工程内検査の徹底、ポカヨケ(ヒューマンエラーを防ぐしくみ)の導入、初品確認の標準化などが有効です。また、直行率(最初から良品として完成する割合)を高めることで、良品率の向上と生産効率の改善を同時に実現できます。
設備稼働率は、単純に「高ければ良い」という指標ではありません。需要とのバランスを見極め、設備投資や生産体制を判断するための経営指標です。
一方で、現場が主体的に向き合うべきなのは可動率やOEEであり、設備を「いつでも動ける状態」に保ってロスを減らしていく日々の改善活動です。
まずは正しく測り、数値の意味を理解すること。
そのうえで、稼働率・可動率・OEEを役割に応じて使い分けることが、持続的な生産性向上につながります。


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