監修者
山本 昭則
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。トヨタ自動車のプレスにて39年の現場経験を経て、OJTソリューションズに入社しました。改善活動には時に大変な場面もあります。それを乗り越える笑顔、会話を特に大事にしています。休日は趣味の山小屋づくりで精神統一をし、日々の仕事の英気を養っています。
本記事をご覧になっている方のなかには、「創意くふう提案制度を導入しているが、提案がなかなか上がってこない」や、「制度が根付かずに形骸化してしまっている」のような悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
本記事では、トヨタが実践している創意くふう提案制度のしくみや、その活用方法を事例を交えて紹介します。
創意くふう提案制度は、トヨタで70年以上根付いている制度です。仕事の効率を上げ、原価低減を実践していくという側面もありますが、まずは自分の困りごとを伝えるための制度です。この制度は、期間従業員を含め全従業員が対象になっています。
基本的なフォーマットはA4サイズの用紙に、現状・改善前・改善後・効果の項目を記入する、誰もが書きやすいシンプルな作りになっています。作成には手書きやパソコンでもOKで、業務中に時間を設け作成します。
書かれた提案に対しては管理監督者が必ず全件に目を通してコメントし、そのなかでも良い提案はさらに上に渡されていきます。
優秀な提案については、委員会の審査を経て、工場レベルで採用されます。また、提案者は表彰される仕組みになっています。
トヨタには「モノづくりは人づくり」という思想があります。人がモノをつくるのだから、その人を育てなければ、良いモノづくりはできないという意味で、モノづくりの原点の一つ「よい品よい考」につながる言葉でもあります。
「よい品よい考」、つまり、従業員一人ひとりが高品質で優れた商品を安く提供する為には、何をすべきか常に考えて実践しなければなりません。そのような改善ができる人材を育てる場として、創意工夫提案制度が活かされています。
創意くふう提案制度は、どのように従業員に提案してもらうか、どのように活用していくか、という点が重要です。
従業員から提案してもらうために、まず経営層が意識するべきことは「問題があることは悪いこと」や「問題は隠したいこと」という認識を現場から捨てさせること、そして現場に一番近い従業員の声を大事にしたいと強く思うことが重要です。
また、制度が形骸化してしまう理由は3つあります。
提案が強制的
ハードルが高く提案に戸惑う
提案を書く能力がない
良い提案が出せる自信がないのにやらされる、という「やらされ感」で自主性が失われてしまい、活動の低迷につながってしまうのです。
従業員の自主性や主体性を引き出し、提案制度を定着させるには、現場に近い管理監督者が面倒見をすることで、従業員の不安を払拭していくことがポイントです。
管理監督者は日常的に部下の困りごとを引き出してやることが前提ですが、それにしっかりと向き合い、すべての提案にコメントやフォローをすることが重要です。これを管理監督者が怠ってしまうと、従業員のやらされ感につながってしまい、活動が衰退していきます。
例えば、「こんな提案を書いてよいのだろうか?」と提案にハードルを感じる従業員は多くいます。こういう場合は、「いい提案です。十分提案できています。」と後押しをします。
書く能力に自信のない従業員には、管理監督者が率先して、他の協力者を見つけてグループで考えさせることや、管理監督者自身がサポートに入ることで提案が進みます。
また、簡単には取り入れることは難しいかもしれませんが、提案に対しての報酬制度があれば、提案に大きく影響します。トヨタでは、提案によって1件あたり何百円から、優秀な提案になると数十万円の報酬がもらえます。金額はともかく、いくらかの報酬があれば価値も感じられ、高い報酬金額の獲得に向けたモチベーションを持って提案に取り組んでいきます。
こうして自分の提案が採用され、業務が楽になったと実感することで改善活動の意欲を引き出し、定着につながっていきます。
トヨタでは従業員一人ひとりの困りごとが、いつでも記入できるように休憩所に大きな困りごとメモがあり、誰でも自由に書けるようにしている職場もあります。
書いたメモに対して、適宜上司と一緒に対策を考え実行し、それでも解決できなかった場合は、さらに上へと相談し、解決していくしくみです。
創意くふう提案制度が形骸化している職場や、新規に導入を考えている職場には、このように困り事を書く習慣から、定着に向けての第一歩として始めてみてください。
創意くふう提案制度には、提案する側も、管理監督者側にも育つポイントがあります。
提案する側としては、まず問題発見の視点が育ちます。繰り返し提案する習慣ができれば、業務のなかから何が問題かと、自然に考えるようになります。
また、提案をまとめる力が身につくことで、他の資料作成にも活かすことができます。さらに、効果を定量的に意識する癖がつき、管理監督者になるための必要な力にもなります。
管理監督者側としては、提案された内容についてフォローが必要になるため、より多くの改善知識や改善力、コーチングやティーチング力などスキルを養わなければなりません。
また、提案内容から従業員一人ひとりの改善レベルが把握でき、今後の育成の目安にすることができます。
このように、創意くふう提案制度は従業員の人材育成にも役立ちます。
トヨタの「創意くふう提案制度」について紹介しました。この制度の本質は、現場の声を大切にし、問題発見や改善の意欲を引き出すことにあります。
管理監督者がしっかりとフォローし、提案内容にコメントやフォローをおこなうことで、従業員の主体性や成長を促し、制度の形骸化を防ぐことができます。また、報酬制度や「困りごとメモ」など、提案しやすい環境づくりもポイントです。
また、創意くふう提案制度は、単なる業務改善の枠を超え、人材育成や組織の活性化にもつながるしくみです。
本記事で紹介したポイントをふまえ、ぜひ導入を進めてみてください。
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