

監修者
丸山 浩幸
OJTソリューションズで、お客様の改善活動と人材育成をサポートするエグゼクティブトレーナーをしています。大阪府出身、トヨタ自動車の品質管理にて41年の現場経験を経て、OJTソリューションズに入社しました。お客様の現場では「この改善、よかったで!」ともう一声の思いやりを大事に、仲間意識が高まるような改善活動ができるよう日々伴走しています。
製造現場で「完成後の検査で不良品が見つかる」「後工程から手戻りが発生する」といった問題に悩んでいませんか?これらの課題は、仕事の品質を各工程で確実に作り込む「自工程完結」の考え方で解決できる可能性があります。
自工程完結は、トヨタ自動車が長年の改善活動から生み出した品質管理の手法です。「後工程はお客様」という意識のもと、各工程が責任を持って品質をつくり込み、問題の発生を未然に防ぐしくみです。
本記事では、自工程完結の定義、トヨタ生産方式における位置づけ、実践を進めるための6つのステップ、そして導入のメリット・デメリットまで、現場で役立つ情報を解説します。
自工程完結とは、「各工程において、その工程で行うべき仕事の品質を完全に保証し、次工程に不良や手戻りを発生させないしくみ」のことです。トヨタ生産方式を原点として生まれた考え方で、単に作業を行うだけでなく、その工程で必要な品質を確実につくりこむことを目指します。
具体的には、以下の要素を含みます:
自工程完結の目的は、「後工程に迷惑をかけない」という消極的な考え方ではありません。むしろ「各工程で積極的に品質をつくりこみ、全体の生産性と品質を向上させる」という前向きな改善活動です。
自工程完結は、トヨタ生産方式の重要な要素の一つです。トヨタは、長年の改善活動を通じて、「品質は検査で保証するものではなく、工程で作り込むもの」という考え方にたどり着きました。
トヨタ生産方式では、「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」を2本柱としていますが、自工程完結は特に「自働化」の考え方と密接に関連しています。異常が発生したら即座に止め、問題を顕在化させて改善につなげる。この考え方が、自工程完結の基盤です。
製造現場だけでなく、設計、開発、営業、管理部門など、あらゆる業務プロセスに適用できる普遍的な考え方として、現在では多くの企業で活用されています。
よく混同される言葉に「自工程保証」がありますが、両者は似ていても異なる概念です。
自工程保証:その工程で作った製品の品質を、その工程で保証することです。主に品質管理の観点から使われます。
自工程完結:品質保証だけでなく、仕事のやり方、プロセス、判断基準まで含めた、より広範な改善活動のことです。
つまり、自工程完結は自工程保証を包含した、より大きな概念といえます。単に品質を保証するだけでなく、仕事のやり方そのものを改善し、問題の発生を未然に防ぐしくみづくりまで含んでいます。
自工程完結を現場で定着させるには、次の6つのステップを順に実行することが重要です。それぞれが相互に関連し、品質向上のサイクルを形成します。
最初のステップは、その工程で何を達成すべきかを明確にすることです。
具体的な実践方法:
例えば、部品加工工程であれば「寸法公差±0.01mm以内で加工する」「表面粗さRa0.8以下を達成する」といった具体的な目標を設定します。
目的が明確になったら、それを達成するための作業手順を標準化します。
具体的な実践方法:
標準化により、属人化を防ぎ、安定した品質を確保できます。新人でもベテランでも、同じ品質の仕事ができるしくみを構築します。
作業の中で「正常」と「異常」を判断するための明確な基準を設定します。
具体的な実践方法:
人による品質のばらつきを発生させないために、誰が見ても同じ判断ができる基準をつくることが重要です。さらに、不良がつくれないようなしくみ(ポカヨケ)を導入することで、より確実に不良を防ぐことができます。
ポカヨケについては下記記事もご参照ください。
ポカヨケとは何か?誰がやっても失敗しない「しくみ」を作る大切さ
準備した手順と基準に従って、実際に作業を実行します。
具体的な実践方法:
ここで重要なのは、「決めたことを確実に実行する」ことです。現場の判断で勝手に手順を変更したり、基準を緩めたりしないことが品質確保の鍵となります。
作業が完了したら、目的・目標が達成できているかを確認します。
具体的な実践方法:
この段階で問題が見つかれば、その場で修正し、次工程に不良を流さないことが重要です。
問題が発生した場合の対処法と、同じ問題を繰り返さないための改善を行います。
具体的な実践方法:
単なる手直しではなく、なぜ発生したのかを深く分析し、二度と同じ問題が起きないようしくみを改善することがポイントです。
自工程完結を導入することで、企業には以下のような効果が期待できます。
各工程で品質を作り込むことで、最終検査に頼らずに不良を出さない生産が可能になります。これにより、検査にかかる時間やコストを削減することができます。また、異常が発生した際には早期に問題を発見して対処できる体制を整えられます。
手戻り作業がなくなることで、生産性が向上します。後工程での問題発見による手戻りは、前工程まで戻って作業をやり直す必要があるため、多大な時間と作業のムダが発生します。
自工程完結を徹底することにより、これらのムダな作業が削減され、本来の生産活動に集中できるようになります。
自工程完結を実践することで、作業者の責任感や品質意識が高まり、「なぜこの作業が必要なのか」「どうすれば品質を向上できるか」を考えるようになります。
日々の業務を通じて問題を見つける目が養われ、継続的な改善が促進されます。
トヨタのある工場では、車体の水漏れ検査(シャワーテスト)を廃止する取り組みが行われました。自動車は水漏れがあると重大な問題になるため、従来は最終工程で車体に水を吹き付けて検査するのが当たり前でした。
この検査はどの工場でも長年続けられており、廃止できるとは誰も考えていませんでした。
しかし、本来検査工程自体そのものは価値を生まず、検査工程が存在することで「自分のところで多少ミスや不良があっても、最終検査で止めてくれるだろう」という甘えを生む恐れがあります。つまり、各工程での品質づくりが不十分になりやすい状態でした。
工場長のリーダーシップのもと、全員が自工程完結に取り組み、工程内で水漏れを防ぐ仕組みを徹底しました。
紆余曲折を経て、最終的にシャワーテストの廃止に成功し、検査に頼らない品質保証体制を実現しました。
自工程完結とは、トヨタ生産方式(TPS)に基づく品質管理の考え方で、「各工程で品質をつくりこみ、次工程に不良を流さないしくみ」を指します。検査に頼らずに各工程で仕事の品質を保証することで、手戻りやミスを未然に防ぎ、生産性と品質の両立を目指します。
トヨタ式の自工程完結では、次のステップで順に実践します。
①良品基準を決める → ②作業手順の標準化 → ③判断基準の明確化 → ④実行(決められたことを守る) → ⑤点検・確認 → ⑥異常時の処置と再発防止。
これらのサイクルを定着させることで、現場の品質・効率・改善力が向上します。
自工程保証は「その工程で製品の品質を保証する」ことを指します。
一方、自工程完結は品質保証に加え、仕事のやり方や判断基準、改善活動まで含む広範なしくみです。
自工程完結は、各工程で品質を作り込み、検査に頼らず不良や手戻りを防ぐための重要なしくみです。6つのステップ(良品基準の設定、作業手順の標準化、判断基準の明確化、実行、点検・確認、異常時の処置と再発防止)を確実に実践することで、品質向上と生産性向上の両立が期待できます。
導入にあたっては、初期の工数増加や作業者のスキル教育など、注意すべき点もありますが、これらを理解し、適切に対応すれば、確実に成果を出すことができます。
製造現場はもちろん、間接部門でも活用できる考え方です。まずは一つの工程から始めて、徐々に展開していくことが成功への近道です。
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