各チームが改善の成果を発表し合う報告会。この存在が経営層と現場を結びつけ、部門と部門の相互理解を深めてきました。また、自分の部署や役職が果たすべき役割への理解の深まりは、企業理念や行動規範といった上滑りしがちな理想を現実のものに変え始めています。この連載もついに最終回。前回の会長に続き、社長にプロジェクトへの、改善への思いを聞きました。
——品質向上には、OJTソリューションズのサービスが導入される前から取り組んでおられました。
社長
今回の活動以前は、「基準の枠内に入れば良品」という考えで、菓子の大きさや厚さ、味にばらつきがありました。そこで、皆が一番良い品質といえるものに近づけていこうと、基準の許容範囲を強引に半分にしてみました。基準から外れたものは全てはねる。そうすれば当然、品質は一定にはなります。しかし、その傍らには、さらに高くなった不良の山。これらの削減に取り組まなければ根本的な品質向上にはならないわけですが、何年もかけて取り組んだものの実を結ばず、すっかり困り果ててしまいました。
もはや、私たちのやり方には当社のスタンダードが染み付いてしまっている。自分たちでは解決の糸口に気付けないのではないか・・・・・・。外部の力をお借りして、客観的に指導してもらった方が良いと結論づけ、OJTソリューションズさんにお願いするに至りました。
——導入後は菓子そのものだけではなく、包装の不良削減など、さまざまな工程で品質向上を果たしました(第2回・第3回参照)。
社長
そこで改めて気付かされたのは、品質が上がれば、生産性も自然と上がるということ。われわれには日々達成すべき生産量があります。基準外のものを作ったら、もう一回作り直さなければなりません。不良を生み出すことが減ったことで、時間内に今日の生産計画が間に合うようになってきた。「量から質への改善」を目指したわけですが、品質も上がり、生産性も上がるようになったのです。
——プロジェクトに対しては、報告会のしくみを大変評価されていますね。
社長
半年のプロジェクトの中で、中間報告会、最終報告会の2回がありますが、現場が何に頑張ってきたのか、われわれ経営陣にもしっかり見えるようになりました。これまでも現場を回って声かけしていましたが、正直に告白すれば、パフォーマンスの面もありました。頑張れよ、大変だね、というねぎらいの言葉に、中身が伴っていなかった。
それが、報告会があることで、現場が何を問題とし、解決に向けて取り組んでいるのかがしっかり分かる。皆の発表を聞いていると、こいつ頑張ったな、知恵を出したな、と考えたプロセスに感動します。それからは、現場を回っても、改善の進捗状況など具体的な会話ができるように変わりました。皆のやる気も上がったように感じますし、私も一緒に気付いて成長できていると実感します。
さらに、例えば報告会での製造部の発表を見て、他部門の社員が彼らの苦労をはじめて知った、ということもありましたね。
——部門間の相互理解の場としても、報告会の役割は大きいということですね。
社長
特に全社展開してからは、各部門の発表を通じ、それぞれの取り組みを理解し、お互いの立場で考えることができるようになりました。バリューチェーン強化と言ってはいたものの、形だけにとどまっていましたが、互いに理解し合うことできちんとつながりができはじめています。
これまでは、向こうの部門がやらないからうまくいかないのだという悪しきセクショナリズムがあったばかりか、そう言って自分たちの仕事までおろそかにしていた。今は、お互いに協力して、自分たちもこれだけやるからそちらもよろしく、と全社的な観点から前向きな話ができるようになってきました。製造から営業、売り場の末端に至るまで巻き込んで、「できたてをお客様に届ける」ための鮮度向上のしくみがどんどん整えられています。
——まさに、企業理念にある「目的・目標志向でプラス思考で働く社員像」の実践ですね。
社長
社員の行動規範など、皆が暗唱できていたけれど、行動に現れていなかった。それが、改善が進むにつれ、会社として掲げている理念やあるべき姿をだんだんと体現し始めたのです。高い理想が本当の意味で実現されていくのではないかと期待しています。
それというのもトレーナーが、働く上で大事にすべきものを指導してくれたから。大事にするべきものが変われば、行動が変わっていく。「自ら考え行動する」といっても、そもそも判断基準を持っていなければ、人は自ら動くことはできません。トレーナーからの「自分の部署や役職の役割は何なのか」という問いかけから、理念や規範に対する理解が深まり、仕事の仕方が少しずつ変わってきたのだと思います。
——今回のプロジェクトを通じて、特に管理職が果たすべき5大任務が意識されるようになりました。
社長
ええ、その自覚による一つの成果は、われわれを人材育成の面で、階層別研修制度の構築に向かわせたことです。入社年次、所属部署、役職ごとにどんな能力を身に付け、どんな役割を果たさなければいけないか。トヨタの工場を視察させてもらい、技術を伝承していくしくみや制度づくりの学びを得ながら、私たちなりの階層別研修制度をつくろうとしています。
もう一つの成果は、改善の働きを人事評価制度に反映しようという動きにつながったこと。管理職が方針を立て、目標をしっかり数値化し、そのもとで各人の改善活動が評価されて、賃金に転化される。そうしたしくみができてはじめて、上司と部下の納得感も生まれると思うのです。部下たちはもっと頑張ろう、上司はもっと指導しようとなり、従業員満足(ES)という形でも現れてくるはずです。
最近ようやく、5大任務に沿った評価表のひな形ができてきたところですが、こうした展開をより一層深めていきたいですね。
——今後、改善を通して目指して行きたいものは何ですか?
社長
最高品質の商品をお客様にお届けすることを目指していますが、最高品質とは人がつくるもの。であれば、それをつくれる人材を育成することが大切であり、改善技能をしっかり身につけさせることが必須です。そして、永続的な改善活動が社内に根付くことが、われわれが求める、自ら考え行動する人材・組織へと繋がります。こうした取り組みを続けていくことが、これからの時代に対応できる、変化に強い組織づくりに生かされていくだろうと思っています。
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