改善の基本である「問題解決の8ステップ」が徐々に浸透し、「量から質への体質改善」「現場で自律的に課題解決できる人材・組織への脱皮」に向けて、製造部は確実に変わり始めました(第3回)。
しかし、「常に鮮度の高い、最高品質の状態で商品をお客様に提供する」という経営陣が示した上位方針を実現するためには、生産計画から製造、物流、営業、販売店の在庫管理に至るまで全部門が連携し、バリューチェーンを強化していく必要があります。次の活動フェーズでは、全ての部署を巻き込んだ「改善プロジェクトの全社展開」がいよいよスタートしました。
プロジェクトへの参加を控えたさまざまな部署の社員と一緒に、製造部の報告会を聞いていたある一人の心を占めていたのは「不安」でした。
彼女は都内有数のオフィス街にある、大手デパート地下の販売店で店長をつとめていますが、店舗スタッフが6人から5人に減ったばかり。また、3月は新入社員を受け入れる時期でもあります。
店長
「これから私たちのような販売各店舗も活動に加わると聞いて、まず、時間の確保ができるか不安でした。少ない人数で多忙を極めているスタッフたちに協力してもらえるだろうかと・・・・・・。また、活動を始めるにあたって工場で研修を受けましたが、売り場でどう取り組んだらいいのかまったく想像がつきませんでした。前向きに取り組みたいという思いがある一方で、接客は数字で見えるものではありませんし、改善テーマの設定にはとても悩みました。」
幸いスタッフたちの協力は二つ返事で得ることができましたが、改善テーマはなかなか決まりませんでした。何度も検討を重ねる彼女たちの様子をずっと見守っていたOJTソリューションズのトレーナーは、機を見て「今一番困っていることから取り組んでみたら?」と声をかけました。
この言葉を足がかりに、チームは自分たちの今を改めて見直しました。そして、最終的に導き出したテーマは「お客様タイム」の増大でした。
店長
「私たちの主業務は、お客様に対する接客。しかし、それよりも包装や配送の梱包、起票などの付随業務に忙殺されてしまっているという実感がありました。なので、ショーケースの前に出てお客様をお出迎えし、きちんと向き合う時間『お客様タイム』を増やそうと考えたのです。」
はじめに彼女たちが取り組んだのは、1日を通して、自分たちが今やっている作業を分単位で記録したことです。各人がポケットに記録紙を忍ばせて、全員で1カ月に渡り業務調査し、集計結果からムダを見つけて取り除いていきました。
また、配送の手配にどれだけ時間がかかっているか、OJTソリューションズから習った分析ツールを使って79工程に分け、その時間を計測しました。工程ごとに一番早いスタッフのやり方を取り入れ、手順を標準化して全体のスキルアップを図ったのです。
店長
「作業時間を記録していくのは大変でしたが、やってみるとこの過程が意外と楽しくて(笑)。配送などにかかる時間を数値で表すなんていう発想は、今までありませんでした。自分たちの姿が客観的に数値化されることに新鮮な面白さを感じて、皆で意見を出し合いながら楽しんで取り組んでいましたね。」
「また、日常業務に加えて、改善活動をする時間を作るのは難しいのではと思っていました。しかし、そもそも改善は、日常の中のムダ取りや付随業務を効率化することですし、苦労もありましたがしっかりやり切ることができました。自分の仕事の姿勢としても、忙しいことを言い訳にすることがなくなりました。」
さまざまな対策を通して、付随業務のムダ取りやスピードアップを実現した結果、わずか半年の活動で「お客様タイム」を1日71分から356分に、約5倍に増大させることに成功しました。
しかし、この活動を通じて得たのは、単に、お客様と向き合う時間を増やせたということだけではありませんでした。「お客様目線で見ること」の本当の理解であると言います。
店長
「今までも『お客様目線』に立っているつもりでした。でも実際には、ミーティングでは自分たちに都合の良い「販売目線」から話し始めていたりして・・・・・・。トレーナーは常にお客様目線からアドバイスをしてくれるので、今は何を話し合うにしても『お客様から見たらどうだろう?』と最初に口に出るようになりました。」
「『お客様目線』が意味する範囲も広がってきて、例えば、付随業務の配送作業もお客様につながっている大切な業務という意識を持つようになりましたね。」
「そのおかげか、スタッフの1人がお客様から接客を大変ほめていただき、感謝の手紙までいただいたことがありました。活動の直接的な成果ではないかもしれませんが、『お客様タイム』を増やせたこと、『お客様目線』の本当の理解が進んだことがその背景にあると信じています。」
こうして各店舗、各部門ごとに成長を続けた改善の芽は、次第に横へと蔓を伸ばし始めています。
製造部と販売店は互いの連携を深め、店舗からの発注方法の改善、本社と店舗での商品滞留の視える化などを推進。平均在庫日数の約40%削減を実現できました。
また、製造部と人事部とで役職に応じた任務と研修制度の構築、昇級基準を明確にした人事制度の策定も進んでおり、全社的なバリューチェーンの強化に歩み出しています。
連載記事はこちらから。
第1回 「改善くらい自分たちでできる」~その先は出口の見えない挫折だった~
第2回 反発、無関心な現場を変えたアプローチ ~プロジェクト成功に欠かせない、現場巻き込みの手法とは~
第3回 「25年変われなかったのに……」〜諦めを覆した問題解決の8ステップの秘密は「層別」にあり!~
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