「つくりたてで鮮度の高い、最高品質の菓子を、常時お客様に提供する」――――その方針のもと進められた数々の改善の試みは、わずか6か月で「包装の不良半減」「生産性14%向上」という大きな果実をもたらしました(第2回)。
続いて、プロジェクトメンバーたちがOJTソリューションズのトレーナーとともに本格的に着手したのは、最高品質の商品を安定的に生産するための原理原則を見つけ出すことでした。
新たに始まる第2フェーズから、プロジェクトに参加することになった彼は重い足取りでした。
改善テーマごとに結成されたチームの1つでリーダーに任命されたものの、集められた同僚たちの背中をぼんやり眺めながら、トレーナーの言葉を遠くに聞いていました。
チームリーダー
「正直、改善やQCなどの活動に懐疑的でしたね。ああ、また始まるのかと。25年働いてきて、こうした取り組みで現場が変わった試しはなかったですから。人も時間も取られてしまってかなわないという思いでした。毎日山のように出している不良も、これくらいは当然と考えていましたし、不良が特に多い日は、原料の出来に責任転嫁してしまうなど、ものづくりを高めていく意識が製造現場にありませんでした。」
このチームで設定された改善テーマは「穴開き不良の50%削減」でした。鉄板に挟んで菓子を焼き上げる際に、生地が膨張・収縮する過程で中心部に穴が開いてしまう現象であり、焼成工程の中で最も多かったのです。これに対し、トレーナーは「問題解決の8ステップ」をしっかりメンバーに浸透させることで、メンバー自身による自律的な改善を促しました。
ちなみに、問題解決の8ステップは以下のプロセスから成り立っています。
あるべき姿と現状とを比べて「(1)問題を明確化」し、不良の生み出される状況を場所や時間などさまざまな観点から捉え直し(=層別し)、「(2)現状把握」によって対策すべき対象を絞り込みます。
そして、定量的かつ具体的な「(3)目標設定」を立て、特製要因図などを用いて「なぜなぜ」を繰り返し、「(4)要因解析」から真因をあぶり出します。
それに対して「(5)対策立案」「(6)対策実施」し、目標に達することができたか「(7)効果確認」して、誰がやってもその不良が再現されることのないよう作業手順などを「(8)標準化」する───というプロセスです。
層別によって対策すべき対象として明らかになったのは「鉄板の左右の温度差」でした。左側を最適な温度に保とうとすると、右側が高くなりすぎてしまい、穴開き不良を発生させていました。
また、温度差をつくり出していたのは、左側の生鮮原料を加工する工程から吹き込む冷気でした。気流の遮断版を取りつけ、さらに細かにバーナーの点火位置やタイミングを調整することで、温度差の均一化を図ったところ、「穴開き不良の50%削減」を4か月ほどで達成できました。
チームリーダー
「実は、鉄板の左右に温度差があるということは、前からわかってはいました。しかし、その温度差がどれくらい焼き上がりに影響しているのか、また、なぜ温度差が生まれていて、均一にするためにはどうするべきか対策を打つまでに至りませんでした。」
「それはこれまで、(2)現状把握と(4)要因分析にあたる部分を自分たちだけではどうやって進めてよいか分からなかったからです。また、結果が出るまでしっかり最後までやりきるんだというメンタリティもありませんでした。」
「トレーナーは改善活動をリード、支援してくれるだけでなく、『耐熱ガラスを鉄板の代わりにして、焼きあがる様子を観察してみよう』と提案してくるなど、真因追究のアイデアも豊富。『これは・・・・・・、トレーナーの言うことを聞くと早く確実に改善が進むぞ!』と、私も自分自身で目の色が変わったのを感じました。」
現状把握、特に層別の大切さに気づいたチームリーダーは、トレーナーや社内アドバイザーのサポートを得ながら「穴開き不良ゼロ」に本気で取り組み出しました。
細かく層別を繰り返し、最も多く穴開きが発生している条件下に絞り込んで対策を実施。不良ゼロを達成できたら、その対策を横展開することで効果を全体に波及させつつ、さらにものづくりの原理原則を極めていこうという取り組みです。
チームリーダー
「鉄板66枚のうち、最も不良が多い鉄板はどれか。鉄板に材料を盛り付ける19か所のうち、最も不良が多い場所はどこか。さらに、どの時間帯で最も不良が多いのか、と細かく層別していきました。つまり、全てで66×19=1254ヵ所の中の1か所、および生産ラインが稼働している9時間のうちの1時間に対象を絞り込んで、対策を実施していくのです。」
それとは真逆の、最も不良が発生していない条件と比較を重ねて明らかになったのは、「鉄板の歪みの差」でした。熱膨張することを織り込んで、鉄板はあらかじめ歪ませてありますが、不良の多い鉄板はわずかながら0.1ミリほど歪みが強いことが分かりました。これを調整することで、この1か所において穴開き不良ゼロを実現できました。
チームリーダー
「なお、これによって改善されたのは穴開き不良だけではありません。鉄板の歪み調整で生地の形状が整ったことにより、それに由来する他の不良も同時に半滅したのです。どう層別するか考えるのは大変ですが、しっかり絞り込めれば、後の要因解析や対策実施が単純明快になります。現在は他のチームに層別のアドバイスをしたり、新人にOJT研修として現状把握・対策実施・標準化に一人で取り組ませて、彼らを監督する役割も担っています。今やすっかり問題解決の8ステップの伝道師になっていますね(笑)。」
こうして、製造段階における「量から質への体質改善」「現場で自律的に課題解決できる人材・組織への脱皮」の道筋はつきました。しかし、鮮度の高い、最高品質の商品を消費者のもとへ届けるためには、生産計画から製造、物流、営業、販売店の在庫管理に至るまで全部門が連携し、バリューチェーンを形成する必要があります。次に進むべく用意されたステップは、改善活動の「全社展開」でした。
連載記事はこちらから。
第1回 「改善くらい自分たちでできる」~その先は出口の見えない挫折だった~
第2回 反発、無関心な現場を変えたアプローチ ~プロジェクト成功に欠かせない、現場巻き込みの手法とは~
第4回 改善は生産現場だけじゃない!~販売スタッフの行動も数値化 ムダ取りから接客を充実~
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